酪農廃棄物

2017.08.25
第一巻 湖水地方レポート

酪農の廃棄物の第一は、糞尿である。

酪農は、旧来の粗放型「放牧酪農」と、近代的な集約型「舎飼い」酪農に大別される。

放牧の場合、一般的に、1haに牛1頭~2頭が許容量の限界とされている。春から秋にかけて草地で草を食べ、冬の草を採草し、牛が出した糞尿を分解するのに必要な大地の面積だ。

舎飼いの場合は、配合飼料あるいは濃厚飼料と呼ばれる、穀物主体に混合された飼料と、粗飼料と呼ばれる乾草を与える。この場合、飼料を確保できて、土間コンクリートを打設した牛舎と搾乳所があれば、草地の面積に縛られずに、牛の頭数を増やすことができる。ところが、問題は糞尿の始末である。増やした頭数分の草地がなければ、大地は助けてくれないので、糞尿は人が始末しなければならない。

国は、10頭以上の牛を飼う酪農家に、屋根と土間コンクリートを打設した堆肥場の設置を義務付けた。糞を溜め、乳酸菌をまき、週に1度はトラクタで切り返してやれば2年後には完熟たい肥ができる、という設計である。獣医師で動物写真家の竹田津実さんも、多くの研究者も、土に触れなければ堆肥にはならないと言うけれど、近代酪農が大地の助けだけでは成り立たない以上、人の手で始末をつけるしかない。

法律だから、酪農家は堆肥舎を作った。だが、使っていないところが多い。2年分の堆肥を積み置くだけの面積のある堆肥舎を持っている農家は、まずいないからだ。2年間切り返し続けるコストも、とても負担しきれない。

大規模酪農家は、1,000頭の牛を毎日3回ずつ搾乳したりする。膨大な量の糞尿が出る。大資本が糞尿の始末と引き換えに、自己資金でバイオガス発電所を作らせてくれと言ってくることもある。自己資金で発電所を作り、経営的に成功した酪農家もある。電力会社から買電を断られて、発電できない農家もある。

しかし実態は、発電も堆肥化もできない酪農家が大半だ。だから、コンクリート土間の牛舎から押し出した糞尿は、生のまま草地に散布する。とてつもなく臭い。風が吹くと被害甚大だ。大気汚染は上昇気流に乗って空にのぼる。一方で、糞尿は土に浸透して、地下水を汚染する。北海道の発表では、十勝の地下水汚染は特にひどい。それに、草地で草が生の堆肥を吸収して、猛烈な発癌性物質である硝酸態窒素を含んだ草ができる。それを食べた牛の体は弱り、ミルクもまた汚染する。

「近代」という主題を、日々、考えさせられる。大量生産、大量消費のシステムという、語りつくされた主題だが、その暴走はいまも続いている。廃棄物という点で、原発と同じ立ち位置にある。

 

湖水地方牧場の場合はどうか・・・。

規則だから堆肥舎は持っているが、牧草ロール置き場に使っている。無牛舎放牧なので、糞尿を掻き出すこともしない。ブラウンスイスも水牛も、地面に糞尿をする。牛が休むパイプハウスの中は、去年から、樹木のチップとバークを厚く敷いて、微生物に糞尿を分解してもらう。一種の発酵床だ。大雨の表水が流れ込んで、その意図が台無しになることもある。特に春の雪解け水は大敵だ。今年は、表水の流れ面よりも高い床を作ってみようと考えている。

発酵床の微生物が、これ以上食べられないと悲鳴を上げ始めたらトラクタで外に出す。すでに熟しているので、草地に積み置きする。ミミズが大量に繁殖し、じきに完熟たい肥というか、土に変わる。それを、牛が草地に出なくなる晩秋に、草地にまく。

めざすのは、自前の畑を持ち、堆肥を還元してソバを作ることだ。そう遠からず実現できるように努力している。自分の農場の中で循環するモデルを作りたい。

課題は、農地の面積だ。今は5haの敷地の中で、パドック、放牧草地、搾乳所、チーズ工房など、すべての機能をまわしている。自然増で頭数は増えていくから、パンクは目前だ。なんでもそうだが、立地がモノをいう。今の牧場用地は、立地は申し分ない。だが、面積が決定的に足りない。ソバ畑、飼料畑、乾乳と育成用の、牛と水牛のための草地が必要だ。そのための資金も考えなければならない。

一歩ずつ、「解」を探し求める。完全な「解」はないのだけれど。なにしろ、人間と言う不完全な生き物が、媒介しているからだ。だから農業は人に内省を強いる。それがこの生業の醍醐味なのだろうと、考えている。

  湖水地方牧場全景.JPG                           2017.8.25

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