第二巻 湖水地方自然博物館

 湖水地方に移住して以来、この地域をいかに「経営」するかを模索してきました。すべて、他人、国、自治体、森林組合等が所有する土地です。しかし、かけがえのない豊かな自然を保持する地域を、後世に向かって、総合的な視点を構築しておくべきで、その思想には理があると考えたのです。思想による支配は、いかにして行われうるか。この地域全域を、生きた自然博物館として経営するという解を試論として導いたのでした。

■経緯と目的

湖水地方自然博物館構想は、一般社団法人湿原研究所設立(201242)当初からの懸案で、大樹町、幕別町、豊頃町の十勝海岸地域に広がる湖沼群地域の研究、自然と歴史遺産等の保全活動、および、賢明な活用/ワイズユースの実現に、主導的な役割を果たす。

同時に、自然博物館は、湖水地方を訪れる訪問者のためのビジターセンター/エコロジーリゾートの機能を果たし、地域全体の総合的な情報の発信基地として、湖水地方観光の重要な拠点となる。

NGO(非政府組織)と、新しい公共

NGOは、近年、目立って、世界中の国々で活発な活動を行っている。

その存在は「新しい公共」と規定され、既存の民間企業、および、従来の行政が対応できない、社会的、かつ、公共的な課題を、社会事業化して解決をめざす。

一般社団法人湿原研究所の主旨は、民間企業、行政とならぶ、第3極としての活動を行うことで、NGOとしての社会的地位を確立し、民間企業、および、行政と連携しながら、その成果として、地域社会の福祉向上と、日本社会、ひいては、人間社会の進化に、積極的に貢献することを目的としている。

湖水地方自然博物館は、そのための重要な事業である。

■定期的な説明会と意見交換会の開催

平成301月から約2年間を設立準備期間として、一般社団法人湿原研究所が主催し、大樹町、幕別町、豊頃町の各教育委員会、晩成温泉等々地元の関係者を交えて、定期的に、説明会、および、意見交換会を開催し、関係各所の意向を調整しながら、当該地域の広い意味での福祉向上を実現する、自然博物館の設立をめざす。

並行して、北海道大学総合博物館との連携協定を進める。準備期間中は、高橋英樹北大博物館特任教授を相談役とする。

一方で、文部科学省所管の登録博物館としての要件を整え、登録をめざす。

■湖水地方博物館の使命 

1.湖水地方の自然環境保全

 一般社団法人湿原研究所創始者のひとりで、初代代表理事を務めた故辻井達一元北海道大学教授は、長年、北海道環境財団理事長を務め、環境省のラムサール条約会議座長であった。辻井達一先生は、ラムサール条約登録を目標にして、湖水地方の全容を調査研究することを目指した。湿原研究所はこれまで、タイキ・フローラ活動を軸にして、植物採集と学術標本製作を進めて来た。優れた保全とワイズユースを実現するために、今後、自然はもとより、考古学の観点から擦文遺跡群の全容解明、地理学、社会、歴史、その他、全体的な観点から、地域の調査、情報の整理、博物館の本来機能である「地域の誇りの蓄積」の実現をめざす。

2.自然観光の拠点作り

湖水地方は、過疎地であるが、ロケット事業等の興隆により、耳目を集めている。ロケット発射時に短期間に多くの人々が集まる際に、マナーとしてのルール作りも必要になる。

また、地域発展のために、年間を通じて交流人口を確保する戦略として、自然観光が重要な役割を果たす。自然博物館は、地域全体の詳細を把握し、資源化し、その活用と保全のための方策を立案、具現化をめざす。

地元の晩成温泉等の既存施設と連携し、相乗効果を生み出し、地域発展の原動力となるべく、機能を果たす。

湿原研究所は、湖水地方の自然観察と研究のために、数年前より、係留型気球の事業化を準備してきた。湿原の不思議な魅力に満ちた自然世界を理解するためには、写真、あるいは、動画では足りない。人が実際に、上空から観察する視点がもっとも魅力的だ。平成27年度には、メットライフ生命保険の協力を得て、飛行船の可能性を試したが、コストが合わなかった。気球は風に流されるために、海に流れた場合は回収が難しくなる。結果として、係留型気球の基地を作り、数百メートル上空に浮遊して観察と研究を行い、同時に、訪問者のための自然観光に活用するべく、準備を積み重ねてきた。

賢明な活用/ワイズユースとは、ラムサール条約会議が提唱する理念で、自然保護か開発か、という二者択一の対立軸ではなく、知恵を絞って、自然と人間が共存共栄するシナリオを開発することを意味する。湖水地方では、近代工学の英知を結集したロケット事業が誕生しつつあり、ロケット射場と自然環境の共存が大きな課題となっている。湿原研究所は、ロケット事業が登場して以来、係留型気球基地を、ロケット射場と共用することは可能だと考えてきた。自然博物館関連施設の中に、十分な計画を立案することで、世界でもっとも自然と協調する気球係留基地/ロケット射場計画ができるはずだ。立地も含めて、慎重に対処したい。

ワイズユースとしての自然観光事業は「山水別荘」と命名された。山水とは、自然世界を象徴する、東アジア特有の語彙であり、先進諸国に見られるエコロジーリゾートの、東アジア版である。自然博物館は、晩成温泉等と連携して、広い意味での自然教育等を求める人々のためにサービスを提供し、一方では、湖水地方牧場と連携して、長期滞在型高級リゾートの流れの中に、独自の地位を占めたいと考える。

3.自然と、地域産業である畜産酪農の共存

湿原研究所は、畜産農家に対する排水基準規制強化が進む時代を背景に、地元の湖水地方牧場と連携して、酪農廃棄物と自然環境の共存を実現するモデル構築を模索してきた。

湖水地方は流域の小さな河川の集合であるため、十勝川や歴舟川など水量の大きな川の流域に比べて、排水等による汚染は、即座に顕在化する。その環境において、畜産による環境汚染対策に、現実的かつ的確な解を提案することをめざす。

湖水地方牧場は、平成26年より、海岸草原のブラウンスイス、湿原のイタリア水牛、以上の2系統酪農に取り組み、湖水地方を象徴する特産品製造を行い、地域の発展に寄与してきた。昨年12月には、「家畜にやさしい動物福祉」第一回認定牧場となり、未来型の酪農を行う、十勝を代表する牧場に成長した。

自然博物館設立を機に、湖水地方牧場は新しい土地で、健全な酪農経営のシステムを構築し、発信力のある観光牧場をめざすことになる。自然博物館は、その自然環境経営を監修し、湿原と畜産の共存モデル構築をめざす。

自然主義リゾート「山水別荘」は、自然博物館と、その関連施設である湖水地方牧場を中核施設とし、来訪客は、生物多様性に満ちた森、あるいは、生きて働く牧場に滞在し、空中に遊泳して湖沼群を、屹立するロケットの周囲に草を食む牛と水牛の群を、夕暮れ時には、西に日高山脈のシルエットを、眺めることになる。

■立地

これらの構想を実現する立地は、海岸に近く、湿原と湖水地方牧場に隣接し、ビジターセンターとしてのアクセスと、気球/ロケット基地を内包することを可能にする条件が必要になる。湿原研究所では、複数の候補地を絞り込み、取得、あるいは、利用の可能性を検討中である。

■スケジュール

自然博物館計画は、平成301月から説明会を含む準備作業を開始。今後約2年間の準備期間中に、用地の取得と基本的施設建設を終え、平成32年春の開館を目指している。2018.1.9

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