乳房炎

2017.09.03
第一巻 湖水地方レポート

 水牛は、ほとんど乳房炎には罹患しないと、アントニオ・ボルゲーゼ教授が言った。可能性として、0.00数パーセントだ。体細胞数が80万あっても、まず、乳房炎ではない、と。

 ボルゲーゼ教授とは、元ローマ家畜改良センター長で、国際水牛連盟の事務局長。要するに近代水牛酪農研究の第一人者である。ローマの国際会議で既知の関係だった。私が、その連盟の日本代表を務めていることもあって、日本に招聘したら快く飛んで来て、セミナーの講師をつとめ、水牛酪農が持続可能な未来型の事業であるとの講演をしてくれた。

 

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 ところで、乳房炎とは、牛の乳房にばい菌が侵入して、文字通り炎症を起こす。私たちの大敵である。

 乳房炎のミルクを含んだミルクで作ると、チーズの風味は徹底的に落ちる。朝、チーズ工房に到着すると、真っ先にミルクを口に含む。あれっ、乳糖の甘味が薄いな、と感じられるときは、たいてい、乳房炎のミルクがまじっている。

 特に晩夏のいまごろの時季に、乳房炎の症状がみられる。夏の疲れで牛の体力が落ちるからだ。人間の風邪などの疾病と同じように、弱った身体に侵入して繁殖する。

 搾乳所で、最初に手で乳糖からミルクを絞り、判定する器具で状態を見る。その場で分かればその牛のミルクは捨てる。ミルクは清浄なのに、乳房炎に罹患していることがある。これが困る。怪しいな・・と思う時には、下記の写真のようにサンプルを壜に取り、農協に体細胞数検査を依頼すると、昼過ぎにはファックスが届く。30万1千を閾値として、それ以上を乳房炎と判断する。

 

 ボルゲーゼ教授の話を聞くまでは、水牛にもこの体細胞数30万1千という閾値を当てはめていたが、以後、湖水地方牧場において、乳房炎はもっぱらブラウンスイス種の病気となった。

 

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