忠類晩成のチーズ 湖水地方の朝

2017.09.23
第一巻 湖水地方レポート

 原産地呼称制度は、フランスのAOC、イタリアのDOCなどが有名だが、たとえば、有名なチーズ「サンマルセラン」、「カマンベール」などは、生産地の地名だ。食品が、その土地の独自性、つまりは、一般にテロワールと称する「風土」を表現している。とすれば、カマンベールチーズと書いたチーズが北海道産だったりするのは、カリフォルニアで作られた日本酒に、「灘の生一本」と書いてあるくらい、おかしなことだ。

湖水地方牧場が本店住所を置く幕別町から、特産品開発の補助金をいただいた。地元の自慢になるようなチーズを作りたい。 

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晩成という土地は、夏に海霧が陸にあがり、霧に覆われると大気はとたんに温度を下げる。作物を作る際には、積算温度が重要な絶対条件になる。播種してから収穫までの気温の総和だ。霧に気温を奪われるから、大半の作物はできず、草しかできないと言われてきた。移住した当初それを伝え聞いて、さて、海霧は資源化できないのか、と、聞いてまわった。ある人が、「海霧はミネラルを運ぶよ。昔、十勝海岸地域は軍馬の育成地だった。草の栄養価が高いからだ」と、教えくれた。

塩分を多く含むミネラルは、漬物に塩をまぶすように、深く豊かな発酵の必要条件だ。ノルマンジー海岸に面したカマンベール村だって、大西洋のミネラルを含む草を食べた牛のミルクが原料だから、ふくよかで豊かなチーズができる。それなら十勝海岸でも同様に、豊かなチーズができるはずだと考えて、チーズ用品種のブラウンスイスを放牧している。

案の定、実に風味豊かなミルクから、風味の濃厚なチーズができた。それで、ブラウンスイスの放牧ミルクを生かした特産品を作りたかった。 

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北イタリアに、ストラッキーノ、クレッシェンツァなどと称されるチーズがある。常食するタイプで、パンなどにたっぷりつけて、毎日食べる。比較的単純な作り方なので、これを下敷きにしてチーズを作れば、ミルクの特徴が強く出るだろうと考えた。まずはイタリアのレシピを実現しようと、その通りに作り始めた。ブライン(塩水)に漬けて質感を締める。毎日作っているうちに、様々な発見があり、日々、製法を進化させつつある。選択する乳酸菌の種類によっては、カマンベールチーズの熟成した中身ように、あの、とろーりととろける、ふくよかな質感が生まれる。ただし、そうなると、皿の上で素直に立っていてくれない。簡便なモールドに詰めるか・・・。そんな試行錯誤をしながら、この地域独自のチーズに成長していってくれるはずだ。

原産地を表現することを意図して、「忠類晩成のチーズ 湖水地方の朝」と名付けた。

 

 

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