水牛の季節到来

2017.10.14
第一巻 湖水地方レポート

湿原のイタリア水牛68が分娩した。予定日が1025日だったので、2週間以上早い。

 

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牛の分娩というと、牧場の人手が集まって、引っ張り出す、母体の健康を案じる、そんな光景が映画やテレビドラマで描かれるが、水牛とブラウンスイスに限り、ほぼ放任だ。朝、気が付くと赤ん坊が生まれている。あっ、産まれているぞ・・・そんな感じだ。まったく手がかからない。

この仔牛はオスだった。来月には、水牛の肉牛育成事業に着手する道北の牧場にもらわれていくことになる。水牛は、10月から11月にかけて、6頭の分娩を予定している。10月中には試作を始めて、乳質の安定を見極めたら、11月半ばには、水牛のミルクでチーズ製造を開始することになるだろう。ミルクの日産は約50kg。水牛モッツァレラチーズの製造量は15kg/day。リコッタチーズは、5kg前後になる。

 

一方、海岸草原の放牧ブラウンスイスは、気持ちよさそうに海岸草原の秋風に揺られている。5か月間食べ続けた草は、ちょうどゴルフコースのフェアウェイのようだ。このくらいしっかりと食い詰めると、草は太陽を求めて横に這うように繁茂する。牛が食べなければ、牧草はイネ科の植物なので、稲のように株になって成長する。そうなっては、牧草地としては失格だ。根が横に伸びて株を増やし、草が広がっていくことで、びっしりとカーペット状に地表を被う。

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ところどころ草が盛り上がっているところは、去年、あるいは一昨年、糞をした跡だ。富栄養状態で草は旺盛に繁茂するが、牛は食い詰めないので、盛り上がって残る。掃除刈りと称して、刈り取ってしまえば、来年生えてくる草は、牛は喜んで食べる。

植物は光合成による養分を頼りに生きる。芽が出て10センチくらいのところがたんぱく質などの栄養素が豊富で、私たちは、その時期を見計らって牛を草地に出す。成長点のあたりに栄養があるので、草丈が伸びきってしまうと、灰分が多くなる。草丈が伸びてから刈り取ることを、一般に刈り遅れと称する。牛は、この方が好きだ。特に、湖水地方牧場の、湿原のイタリア水牛と、海岸草原の放牧ブラウンスイスは、刈り遅れが好きだ。それも一番草の。

草の繊維が乳脂肪のための飼料なので、湖水地方牧場にとっては、刈り遅れが良い。それで、隣の牧場から購入する牧草ロールは、一年に一度、刈り遅れを刈り取るので気に入っている。

それでも、牧草地に出す牛は、短い草を食べさせる。乳量も多くなるし、ミルクの活力が素晴らしく旺盛だ。チーズ製造に使う際には、これがずいぶん曲者で、扱いに窮することも多い。海岸草原の放牧ブラウンスイス乳は、6か月のあいだ、いつも少しずつレシピを変えながら対応する。それでも、緑草に豊富に含まれるカロチン、つまり、ニンジンの赤い色のベータカロチンは悩ましい。チーズはどれもこれもわずかにオレンジ色がかった黄色に染まる。これは避けられない。

11月に入ると、天候を見て、ブラウンスイスを草地からパドックに戻す。海岸草原で刈り取った乾草をたべて、春まで過ごすのだ。そうなると、ミルクは爽やかでおとなしい。牧草は貯蔵しておくので、半年の間に多かれ少なかれ発酵が始まり、春先、気温の上昇とともに乳質が急激に変わるのも、悩みの種だ。毎年のことだから慣れるだろうと思うかもしれないが、毎春、本当に当惑する。

春のことを思いながら、冬支度に追われる10月である。       29.10.14

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