リコッタ/Ricotta

2017.10.12
第一巻 湖水地方レポート

リコッタとは、イタリア人が開発した、世界的に有名なチーズの名前だ。

チーズは、ミルクに乳酸菌を与えて乳酸発酵し、凝乳酵素/レンネットで凝固させたカードから作る。その際に、カードから分離する液体を乳清/ホエイと呼ぶ。その乳清から、乳清タンパクを煮出して作るチーズが、リコッタである。

 

 乳清タンパクは、筋肉系の人々にとっては、サプリメントで摂る補助食品だ。欧州や米国では、筋肉の増強に有効な機能性が認められている。もちろん子供にも、筋肉を維持したい高齢者にも機能する。脂肪をほとんど含まないから、ダイエット中の人にも、たくさん食べていただける。「ほとんど含まない」と言う理由は、香りづけなどの目的で、いくらかミルクを足すからだ。ミルクは脂肪を含んでいる。その結果、ホクホクした旨み、と言うべきか・・・、口に含んで、うっとりしてしまうくらい、美味しい。

 

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 協働学舎新得農場が、毎年、フランスからチーズの専門家を招聘して、研究会を開いている。去年と一昨年は、湖水地方牧場も手を挙げて、共同招聘者の立場に立ち、フランス人を受け入れた。ちょうど、地元の自治体から補助金が出て、地元の特産品を作れと言う。フランス人専門家は、「日本人はどんなものを好むのか・・?」と質問してきた。そこで、湖水地方牧場が作るものの中では、リコッタが広く愛される、と申し上げた。すると、「あーんな、おからみたいなもの!」から始まり、通訳も一緒に盛り上がって、イタリアチーズの悪口を言い始めて止まらない。果ては、乳酸発酵の温度帯がフランスよりも高いことが気に入らない、カプチーノは高温の蒸気でミルクを泡立てるが、ミルクの風味が飛んでしまうではないか、工房で蒸気ボイラーを使うなんて実にセンスがない、光熱費の無駄遣いだ、とまで言い出す始末だ。

 

いったい、イタリアとフランスは、百年戦争でもしているのか?

白菜をキムチでたべる韓国人は口の中を唐辛子で真っ赤にして、白菜の本当のうまみを台無しにしている、なんてことを言う日本人はいない。

中国人はなんでも油で揚げるか炒めてしまうが、あれは大陸の水事情が最悪だから全部火を通すことになるので、日本は清流に恵まれているから食文化の点で優れている・・なんて、日本人はそんな料簡の狭いことは言わないでしょ。

イタリア人がミルクを高温で処理するのは、イタリアの食文化、フランス人が20℃で熟成させるチーズをつくるのも食文化、そんなものは、好みの問題だ。人の好みをあざ笑うのは低級な仕業だ。

すっかり興ざめしてしまって、それ以来、フランス人専門家招聘には参加していない。そのうち、高度な技術をさらに進化させる必要に迫られたら、改めて宮嶋さんに頼んで、仲間に入れてもらうと思うけれど、しばらくは、いいや・・・

 

お国自慢の一種かもしれないが、日本人は好奇心に満ち溢れて、どこの国のものにも興味を持つ。大陸の東の果てで、文化のちゃんこ鍋だと言われるが、まあ、その通りだろうな。第二次世界大戦後はアメリカに首根っこを押さえられて、アメリカのもの以外はダメだという人士も多いけれど、本来、文化の多様性という点で、日本文化は豊かなのだと思いたい。

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リコッタは、本当においしい。前菜に、サラダに、スープに、メインの肉や魚に、そして、デザートによし、言うことなしだ。

リコッタは乳清の分量の約9%前後できる。乳清は、湿原のイタリア水牛の場合ミルクの70%前後、海岸草原のブラウンスイスの場合は、ミルクの80%強。だから、リコッタは、湿原のイタリア水牛のミルク10kgからおよそ650g、海岸草原のブラウンスイスの場合は10kgのミルクから720g前後を、作ることができる。海岸草原のブラウンスイスの場合、10kgのミルクから2kg弱のモッツァレラチーズができる。したがって、リコッタは、モッツァレラチーズの35%くらいだ。だから、リコッタだけの大量注文をいただくと、困り果てる。それでも、美味しいと言っていただくと嬉しくて、なんとか帳尻を合わせようと一生懸命に取り組むのだけれど。

 

また、乳清タンパクを取り出した後の液体を、一部のイタリア人はスコッタと呼んで、煮込み料理に使う。特に、肉のうまみを引き出して、素晴らしいコクと滋味を演出してくれる。送ってくれというレストランなどお客様には提供させていただいているが、送料を考えると、常に使うにはコスト高なのだろうと思っている。       2017.10.12

 

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