モッツァレラチーズ

2017.11.13
第一巻 湖水地方レポート

今日から、「湖水地方牧場のモッツァレラチーズ」に、湿原のイタリア水牛の原料乳が参加。海岸草原のブラウンスイスと、並走することになる。

 

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 水牛モッツァレラと、ブラウンスイスのモッツァレラとの比較を、しばしば問われる。実のところ、全く違う。作るのが難しいのは、圧倒的にブラウンスイスだ。

モッツァレラチーズは、水牛乳を使って、その風味を表現するのに最適なチーズとしてこの世に生まれた。ブラウンスイスは、繊維、脂肪、たんぱく質、その組成が水牛とは全く違う。当然、レシピは全然違う。目指すモッツァレラチーズの表現も、別の世界になる。

 

作っている私の感触としては、海岸草原のブラウンスイスは、植物の淡い緑色だ。そよ風のような繊細さ、和の食材にたとえれば「しんじょ」のような、滑らかな口当たりにたどりつく。モッツァレラチーズは、チーズ製造の初級に挙げられるように、手順通りに作ればだれでも作れる。たいていは、ホルスタイン乳を使う。だが、湖水地方牧場のように、海岸草原のブラウンスイスが生み出す、滋味深い独特なミルクを生かすとなると、これは難しい。4年かけて、ようやく、独自の表現にたどりついた。

 

一方の水牛乳モッツァレラチーズは、すでにイタリアで職人たちが追及し、確立されたレシピがあるのだから、そこから外れずに作れば、誰でもまずまずの美味しいものができる。とは言っても、日本国内では水牛乳の確保が不可能だから、希少価値はある。水牛モッツァレラで最も大切なのは、質の良い新鮮な水牛乳を手に入れることに尽きる。牛を育てて良質なミルクをもらうことと、チーズ製造とは切り分けるべきだという人もいるが、日本で、水牛のミルクを生産してくれる牧場などどこにもないのだから、川上から川下まで、すべて湖水地方牧場の中で完結する。

我田引水になるから、普段、あまり話さないが、イタリアで最高の技術者が作ったとされるモッツァレラチーズを、ナポリやサレルノで毎日のように食べたが、その記憶を手繰り寄せてみる限り、北海道で私どもが作ったものの方が、美味しいと思う。

なぜだろう・・・と、ずっと考えてきた。

一つ明らかなのは、「水」の違いだ。イタリアは、ご承知のように石灰岩質の大地で、カルシウム、マグネシウムなどのミネラル過多な硬水である。湯を沸かすと、水に含まれる石灰質が、ごつごつの白い結晶となってヤカンにこびりついてしまう。数年のうちには、髪が赤茶けてくる。3世代くらいのうちには、金髪化するのではないかと冗談の一つも言いたくなるほどだ。一方の日本は、軟水である。当然、人体にも良いから、牛にも良い。乳は70%ほどが水分だから、乳質も軟水の方が良いのは当然だ。モッツァレラチーズの質だって、違って当然だろう。

もう一つは、塩蔵の濃度だ。

イタリアから輸入するモッツァレラチーズは、飛行機で高額な運賃を支払っても通関を含めて最低4日間は必要だ。店頭に置くことを想定しているから、2週間は賞味期限が欲しい。となれば、当然のことながら、塩分濃度は高くなる。塩味が前に出てしまう。

湖水地方牧場は、地元消費の場合は当日お客様の口に入るし、日本全国、航空便を使って翌日には納品する。だから、塩分濃度は低く抑えて提供できるので、熟成したミルクの風味を前面に出して表現することができる。

湖水地方牧場のレシピでは、モッツァレラチーズを作る際に、カードを溶かす熱湯に塩は含まない。成型後に保存する液に塩分を含ませて、保存中に少しずつ塩分がチーズに浸み込むようにしている。地元のお客様に提供する場合は、50gくらいの小さなものを作り、半日くらいで塩分がほどよくなるように工夫する。美味しいのは当然だということになる。

 

さて、海岸草原のブラウンスイスと、湿原のイタリア水牛、それぞれ、モッツァレラチーズを作る場合は、練り方も、乳清を生かした表面の締め方も、保存液の組成も、全然違ってくる。その両方の技術と勘を使い分けながら、秋冬を過ごす。まずは、今日の試験製造がどんな結果を生むか・・・

                                                                2017.11.13

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