南十勝放牧の会

2017.10.01
第一巻 湖水地方レポート

十勝地方の南、太平洋に面した広尾町、大樹町、幕別町忠類晩成に、合計13軒の放牧酪農家がいて、定期的に勉強会を開催する。湖水地方牧場も、南十勝放牧の会の会員である。

会長をしているのが、坂根遼太さん34歳。酪農家3代目。その牧場を訪ねた。

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チーズを作るには、放牧の牛のミルクであることが絶対条件だ。日本では、大半のチーズ生産者が、放牧ではない、舎飼いの牛のミルクか、あるいは、出所の分からないミルクを原料にしている。

しかし、カマンベールだって、サンマルセランだって、原産地を呼称する以上、土地の風土を表現している。舎飼いで、どこかの国から輸入された、「より安い」穀物を配合した飼料をたらふくたべさせて、より多くのミルクを生産することを目標にした農場で、生産されたミルクが原料では、テロワールの表現は不可能だ。

 

経営を考えた時にどうか・・・

舎飼い、つまり近代的な集約型酪農では、年間に1頭あたり1万リットル前後のミルクを生産させる。1日に3回搾乳する牧場もある。人間の労働量も、並大抵ではない。牛に無理をさせるので、健康は損なわれて種がつきにくくなり、平均2産強で廃牛として肉用に出荷する。出産後約2年後に最初の分娩をして、その1年と少し後に肉として売られるのだから、完全な成牛になる前に肉になる。若い牛の肉だから柔らかく、市場でよい値がつく。資金はどんどん回る。集約型だから、1家族で300頭の搾乳牛を回している農家もある。3家族で1,000頭なんていう、いわゆるメガファームもある。牛はいったん牛舎に入ると、二度と外に出ることはない。

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放牧は、朝、搾乳したら牛が歩いて放牧地に出ていく。たいていは、牛舎と出入り自由だから、牛は気が向いたら牛舎に戻り、飽食状態にされた飼料を食べることもできる。良く歩くから足腰が強くなり、病気も少ない。乳量は6000ℓから8,000ℓの間だが、5産から8産はしてくれる。人間の仕事はぐっと少なくなる。放牧でもっとも経済効率の良い規模は、40頭から60頭の間であるという、とある農協の報告書を読んだことがある。規模を追いかけることは難しいのではないか。南十勝放牧の会も、ほとんどが40頭から60頭の間だ。坂根さんは稀なケースで、80頭前後の搾乳牛を持っている。

 

坂根さんのご両親は、当初、アメリカ式の集約型酪農をやっていたが、30年ほど前に、ニュージーランド型放牧酪農を知り、切り替えた。坂根さん自身、放牧酪農でなければ後継はしなかった、と言う。自然に頼る放牧には、人生の哀感がある。お金の計算さえ間違えなければ、生活の豊かさを楽しめる。

 

乳質は、チーズ製造に向いている。しかし、南十勝放牧の会の会員で、チーズ製造をしているのは、湖水地方牧場を入れて3軒。湖水地方牧場も含めて、全量チーズにしている牧場はない。湖水地方牧場がもっとも大きな規模でチーズ製造をしているのだから、他の牧場は大半のミルクを、農協に売り、他の牧場のミルクと合乳して、雪印や四つ葉乳業などの大手乳製品メーカーに売却される。

ここに、資源がある・・・と、考えるのは当然だろう。原産地を表現する独自のチーズを企画開発して、この地域の放牧ミルクを生かしてみたい。私の事業の、目標のひとつだ。

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